Research

研究概要
秋山研究室では,生体の細胞を機械部品と融合させることで,新しいシステムの創出を目指しています.例えば,モーターの代わりに生物の筋肉を取り込むことで,電気や化石燃料を必要とせず,生体の持つ自己修復機能を備えたバイオハイブリッドロボットが可能になります.また一方で,細胞を磁場によって操作する技術を確立し,試験管内で細胞から移植可能な生体組織を組み上げるシステムの開発や,インクジェット技術により細胞を微小液滴内に閉じ込めることで細胞を瞬間凍結し保存する技術の開発など,新しい独自技術の開発を目指しています.

  1. 筋肉で動くマイクロロボット
    筋肉は,生物が40億年の進化の末に獲得した大変優れたアクチュエータ(駆動源)とみなすことができます.そこで,この筋肉組織やそれを構成する筋細胞を直接的にアクチュエータとして人工システムに取り込むことで,生体の持つ自己組織化・自己修復機能を備えたバイオハイブリッドロボットの創成を目指しています.これまでに,昆虫筋組織を利用した自律移動型マイクロロボットやマイクロピンセットの実証に成功しており,現在はこれらのバイオハイブリッドロボットの制御法,および筋組織を人工物上で構築する技術の開発を行っています.

    生体の筋肉によって動くデバイスの例(左)自律歩行するマイクロロボット,(右)大気中で動くマイクロピンセット

    生体の筋肉によって動くデバイスの例(左)自律歩行するマイクロロボット,(右)大気中で動くマイクロピンセット

  2. 細胞から組織や臓器を構築する3次元造形システムの開発
    近年,ES細胞やiPS細胞など多能性幹細胞が樹立され,さらにこれらの細胞を神経や筋肉など分化誘導する技術も確立されつつあります.今後,再生医療の最終目標である人体の臓器を生体外で構築し不具合のある臓器と入れ替えるという最終目標を達成するためには,多種類の細胞を生体組織同様の複雑な構造体へとアセンブリする技術が必須です.既に,我々は細胞を標識することなく磁場により操作する技術を確立しており,現在は異なる種類の細胞を任意形状の組織や臓器へと組み上げる3次元造形システムの開発を行なっています.

    磁場によって細胞から組織を組み上げるイメージ(左)とそのためのシステム概要(右)

    磁場によって細胞から組織を組み上げるイメージ(左)とそのためのシステム概要(右)

  3. インクジェットによる細胞瞬間凍結保存技術の開発
    医療および生物分野では,細胞を貯蔵し輸送する手段として細胞凍結保存技術は欠かせない技術です.しかし,単純に細胞を凍結すると氷晶(氷の粒)が細胞内外に形成され,これが細胞膜や細胞内小器官を破壊するため,細胞は死んでしまいます.そのため,従来の細胞凍結技術では,凍結保護剤を添加することで氷晶の発生を抑えていますが,凍結保護剤自体の毒性や凍結過程における細胞の脱水などの問題があります.そこで,インクジェット技術により細胞を数百 pL程度の微小液滴中内包し瞬間凍結することで氷晶の生成を抑制し,凍結保護剤を用いない新たな細胞凍結保存技術の開発を目指しています.