JKA補助事業(2021)

2021年度 音響収束によるマイクロプラスチックの
         連続画像分析技術の開発 補助事業

1 研究の概要
本研究は、近年環境問題として大きな注目を集めるマイクロプラスチックの自動分析に手法開発に関わるものである。現在のマイクロプラスチックの調査法は、手作業に依存しているため、時間がかかるばかりか、本当に微小なマイクロプラスチックについては対応できていない。そこで、マイクロ流体技術と超音波による微粒子操作を組み合わせることで、流れるマイクロプラスチック微粒子の顕微鏡によるサイズ計測やラマン分光による材質分析を実証した。まず、顕微鏡レンズの被写界深度内に微粒子を集めることで、ピントのあった顕微鏡像が得られることを確認した。そして、この状態において顕微ラマン分光により微粒子の材質が同定可能なことを確認した。以上により、プラスチック微粒子の分析が可能であることが確認できたので、今後はこの技術の装置化に向けて取り組みたい。

2 研究の目的と背景
近年、環境問題として注目が集めるマイクロプラスチックであるが、その汚染状況の早急な解明が望まれている。しかし、技術的な問題から、現在の調査研究においては、数百マイクロメートル以上のものしか回収されておらず、それ以下の微小なものは対象と出来ていない。さらに、その分析は人がマニュアルで1つ1つピックアップし回収後、赤外分光等で材質を同定する必要があるなど、大きな労力と時間を必要としている。そこで、マイクロプラスチックのサイズのみならず、材質も含めてフローにおいてラマンスペクトルにより自動分析できる技術を完成させる。これにより従来のマイクロプラスチック調査では、技術的問題から対象外とされていたマイクロメートルサイズの微小なマイクロプラスチックも含めて分析可能とすると共に、律速であった分析工程を自動化し、マイクロプラスチック汚染状況解明の進展に貢献する。

3 研究内容
本研究では、顕微鏡下において画像分析によるサイズ計測およびラマン分光による材質特定を行うことを目指している。そのためには、顕微鏡対物レンズの被写界深度内に対象物となるプラスチック微粒子を収める必要がある。そこで、従来は音響収束により水平方向にのみプラスチック微粒子を集めていたが、垂直方向にも集めることでこれを達成する。
まず、厚み方向の共振を考慮して、流体デバイスを作製した。そして、これに圧電素子を貼り付けて、さらに送液チューブを取り付けた状態を図1に示す。ここに、直径約15 µmのプラスチック微粒子を、流量約300 µL/minで流しつつ、約1 MHzの正弦波を圧電素子に加えることで超音波振動を与えた。その結果、図2に示すように、蛍光プラスチック微粒子を、水平方向のみならず垂直方向にも集める2次元収束を行うことに成功した。

ガラス製マイクロ流体デバイス

図1 ガラス製マイクロ流体デバイス

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図2 マイクロ流路内で収束し蛍光プラスチック微粒子(黄色)

次に、顕微鏡下で流れるプラスチック微粒子の様子を観察し、鮮明な像が得られることを確認した。そして、画像処理プログラムを作成し、図3に示すように粒子像を自動取得できることを確認した。また、このプログラムでは、得られた画像からサイズを計測することも出来る。

図3 画像処理プログラムで得られた粒子像

図3 画像処理プログラムで得られた粒子像

最後に、顕微ラマン分光により、プラスチック微粒子の材質が同定可能なことを確認した。ポリエチレン微粒子は、ポリエチレンの特徴である1080 cm-1、1140 cm-1および1310 cm-1付近の3つ鋭いピークと1450 cm-1付近の幅広いピークが確認できた。びポリスチレン微粒子は、ポリスチレンの特徴である1020 cm-1付近の大きなピークと1610 cm-1の小さいピークが共に検出された。以上から、ポリエチレンおよびポリスチレンの微粒子について、ラマンスペクトルを基に材質を同定可能であることが確認できた。

4 本研究が実社会にどう活かされるか―展望
本成果を発展させて最終目標である本技術によるマイクロプラスチックの分析装置が完成すれば、手作業によらないサイズ分布および材質を含めた自動分析が可能になる。これは、マイクロプラスチック問題に取り組む研究者や団体が、大きな労力を割くことなく調査研究をできるようになると共に、工場や汚水処理場において、経時的なモニタリングが可能になり、マイクロプラスチックの汚染状況の解明に大きく貢献できる。

5 本研究にかかわる知財・発表論文等

論文
Tatsuki Jonai、 Yoshitake Akiyama、 Two-dimensional acoustic focusing of microparticles in a rectangular microchannel using a dual-frequency-excited single transducer、投稿中

学会発表
秋山佳丈、城内健希、中山明美、森脇洋、音響収束によるマイクロプラスチック高濃度濃縮デバイスの開発、環境化学物質3学会合同大会、2022(Jun。 15)

城内健希、森脇洋、秋山佳丈、マイクロプラスチックの高濃度濃縮回収に向けた音響収束による連続分離機構の実証、日本機械学会ロボティクス・メカトロニクス講演会 (Robomech2022) 2022(Jun。 03)

城内健希、田村和樹、森脇洋、秋山佳丈、二次元音響収束を利用したマイクロプラスチックの連続画像分析プログラムの開発、日本機械学会ロボティクス・メカトロニクス講演会 (Robomech2021) 2021(Jun。 07)