研究概要
秋山研究室では,微細加工技術を用いて機械工学的観点からマイクロスケールでの特徴を利用した新しい技術の開発を進めています。例えば,立方体の一辺の長さを10分の1にすると,表面積は100分の1に体積は1000分の1になります。このとき,体積に対する表面積の割合を表わす比表面積は10倍に増加します。その結果,マイクロスケールでは,体積に比例する体積力(重力や電磁気力など)の影響が小さくなり,面積に比例する面積力(粘性力や静電気力など)の影響が大きくなります(スケール効果)。このようなマイクロスケールでの特徴に着目し,微小なインクジェット液滴を利用した細胞凍結保存技術やマイクロ流路での超音波を利用したマイクロプラスチックゴミの回収技術の開発等のまだ世の中にない独自技術の開発を行なっています。
細胞凍結保存技術の開発
秋山研究室では,世界で初めて超瞬間的に細胞を凍結することで,凍結保護剤を利用しない細胞の凍結保存に成功しました。従来,凍結工程で発生する氷晶(氷の小さい粒)が細胞にダメージを与えるため,凍結保護剤を添加し氷晶を抑制しガラス化状態に持っていく必要がありました。しかし,この凍結保護剤には一般に細胞毒性があるなど凍結保護剤無添加の凍結保存技術の開発が望まれていました.理論的には,細胞を毎秒一万度を超える冷却速度で凍結すれば,結晶が生成する前にガラス化できるだろうことが予想されていましたが,技術的に困難でした.そこで,サイズを小さくすることでより急速に凍結することができるというスケール効果に着目し,インクジェット技術を用いて細胞を40 pL(1ピコリットル = 10-12リットル )の微小液滴として凍結する技術を開発しました.その結果,細胞内の水はガラス化し,凍結保護剤不要の凍結保存法の開発に成功しました。本手法の有用性は,マウス繊維芽細胞NIH 3T3等の細胞株および初代培養細胞であるラット間葉系幹細胞を用いて確認済みです。現在は,凍結保存できないサンプルへの凍結保存実現に向けて本手法の改良を進めると共に,本手法の実用化に向けた研究を進めています。
マイクロプラスチック回収技術の開発
近年,環境問題としてマイクロプラスチックが大きく注目を集めていますが,その中でも洗濯排水に含まれる微小な合成繊維屑がマイクロプラスチックファイバーと呼ばれ、マイクロプラスチックの主要な発生源の1つとされています。秋山研究室では,超音波を用いたマイクロ流路内における音響収束のマイクロプラスチック回収における有用性を見出しました。現在は,国内唯一の繊維学部の研究グループとして,マイクロプラスチックファイバーの回収技術の実用化に向けて研究を進めています。
マイクロプラスチックの分析調査のための回収は,一般にメッシュサイズが約0.3 mmのプランクトン採取用ネットによる濾過により行われています。そのために,メッシュサイズより小さいマイクロプラスチックは回収できていませんでした。また,一方,メッシュを細かくすると細かい粒子まで回収できますが,目詰まり等の問題が発生します。そこで,微細な流路中で超音波によりマイクロプラスチックを集めて濃縮回収することを提案し,その有効性を実証しました。試作したデバイスにより、数µmの微小なプラスチック粒子まで回収することができることを確認しています。また、洗濯排水に多く含まれるようなマイクロプラスチックファイバーについても回収実験を行い、粒子同様に回収可能なことを確認しました。
筋肉で動くマイクロロボット
筋肉は,生物が40億年の進化の末に獲得した大変優れたアクチュエータ(駆動源)とみなすことができます.そこで,この筋肉組織やそれを構成する筋細胞を直接的にアクチュエータとして人工システムに取り込むことで,生体の持つ自己組織化・自己修復機能を備えたバイオハイブリッドロボットの創成を目指しています.これまでに,昆虫筋組織を利用した自律移動型マイクロロボットやマイクロピンセットの実証に成功しており,現在はこれらのバイオハイブリッドロボットの制御法,および筋組織を人工物上で構築する技術の開発を行っています.
細胞から組織や臓器を構築する3次元造形システムの開発
近年,ES細胞やiPS細胞など多能性幹細胞が樹立され,さらにこれらの細胞を神経や筋肉など分化誘導する技術も確立されつつあります.今後,再生医療の最終目標である人体の臓器を生体外で構築し不具合のある臓器と入れ替えるという最終目標を達成するためには,多種類の細胞を生体組織同様の複雑な構造体へとアセンブリする技術が必須です.既に,我々は細胞を標識することなく磁場により操作する技術を確立しており,現在は異なる種類の細胞を任意形状の組織や臓器へと組み上げる3次元造形システムの開発を行なっています.




